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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)362号 決定

被疑者 江口良子

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、申立人代理人作成の別紙準抗告申立書記載のとおりである。

二、本件準抗告には次の理由により失当である。すなわち、

(一)  取寄せにかかる関係捜査資料によると、東京簡易裁判所裁判官は昭和四八年三月二七日司法警察員の各請求により頭書被疑事件について、捜索差押許可状二通を発付し、これに基づき、(1)同月三一日司法警察員宮下立巳は、東京都千代田区丸の内三―五―一麹町保健所一階理化学検査室内を捜索し、同室内で申立人が使用している机の抽出しからメモ二枚、名刺一二枚を、書棚から新聞紙一枚を発見してそれぞれ差押え、さらに(2)前同日司法警察員宮本信之は、肩書住所地にある申立人の居室を捜索し、同室内にあつた「世界革命運動情報16(ゲリラ戦教程)」と題する小冊子一冊を発見し、これを差押えたことは明らかである。

(二)  ところで、前記一件記録によると、司法警察員より右差押物件を証拠品として送付を受けた検察官は、捜査の進展に伴い、右差押物件を留置する必要がないと判断し、同年四月一六日これにつき還付処分の決定をなし、即日その旨申立人に通知するとともに、右物件受取りのため出頭するよう連絡したが、申立人が出頭しなかつたので同一八日警察官に指示して右差押物件を申立人方まで届けたところ、申立人は弁護士に一切を委任しているとの理由で受領を拒否したことが認められる。

しかして、捜査機関の行なう押収物の還付は、司法警察員または検察官が押収物還付の決定をし、これを被還付者に通知した時にその効力が発生し、同時に押収の効力が消滅すると解せられるところ、本件についてこれをみるに、前叙のように、前記差押物件の送付を受けた検察官はこれを留置する必要がないとして還付処分の決定をしその旨申立人に通知を了しているのであるから、前記捜索差押許可状二通に基づいて差押えた各物件に対する押収はすでに効力を失つているというべきである。

してみれば、本件準抗告はその対象を失い申立の利益を欠くに至つたというほかないので、申立人主張の差押の必要性の有無等差押執行の実体に立入つて判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

三、よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項を適用し主文のとおり決定する。

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